• 「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(以下「映画術」)との出会いを教えて下さい。
  • 12歳頃に購入し、モンタージュの箇所は何度も繰り返し読みました。昔バイク事故で入院していた時に、フランスのラジオ局が「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」インタビューの一部を放送したのを聴いたのですが、そのこともよく憶えています。
  • この映画は、ビジュアル版「映画術」というよりも「映画術」を愛した、或いは「映画術」に影響された映画人に関するドキュメンタリーにもなっています。なぜそのようなアプローチの作品にしたのでしょうか?
  • そもそも、本のビジュアル化ということには興味がありませんでした。本の映像化で終わってしまうことは、映画としての行き場がありません。この映画では、「映画術」を愛する人や、ヒッチコックの作品に対して繋がりを感じさせる人にコメントを頂きましたが、「ヒッチコックは重要な映画作家です」とか「このショットが素晴らしい」といった感想が欲しかった訳ではありません。「ヒッチコックを愛している」ということだけでなく、「映画作りとは何か?」ということについて語れる人が必要でした。インタビューした10人の映画監督たちは、皆そのような方々です。
  • 「映画術」に記述されている膨大な情報を処理するため、どのような基準で情報を取捨選択したのでしょうか?
  • トリュフォーの取材テープには、「映画術」よりも多くの情報が録音されていました。そもそも「映画術」は、そのテープから編集され、出版したものですから(笑)。私がいつも一緒に仕事をしている編集のレイチェル・ライヒマンは「テープの中で、熱を感じるところを取り上げてはどうか?」と提案してくれました。例えば、ヒッチコックが夢の話をするくだりがそうですね。逆に、ヒッチコックにとって初のカラー作品として作られた『ロープ』(48)については、編集の段階で本編からほとんどカットしてしまったという経緯があります。
  • この映画の中には、ヒッチコック作品のフッテージが多数使われていますが、そのカットの長さにリズムを感じました。それは意図されたものですか?
  • 小津安二郎がストップウォッチを使って演出した、というエピソードと同じということですね(笑)。まずひとつに、この映画を早いペースで見せたかったということがあります。そして、ボールが転がってゆくようなエネルギーが生まれる構成にしたいと思っていました。そうすることで、別々の作品から抜き出したはずのフッテージ同士に関係性が生まれ、そこからヒッチコック作品における共通点を見出せるという意図があります。
  • この映画でも<モンタージュ>が巧みに使われているのが興味深いです。例えば、ウェス・アンダーソンの発言にミニチュアの列車を走らせているカットを重ねることで、ミニュチュアを多用するアンダーソンがヒッチコックの影響を受けているような印象を与えています。
  • この映画の中では、特定の映画のことを話している部分もあれば、より広い意味で映画というものを話している部分もあります。なので、ウェス・アンダーソンが話している部分に『第十七番』(32)のカットを使ったことで、そのような効果が生まれたのかも知れませんね。実は、デビッド・フィンチャーが『ソーシャル・ネットワーク』(2010)でやった<モンタージュ>を意識しながら、この映画で実践しているんです。
  • <アメリカン・ニューシネマ>の監督はトリュフォーたちの<ヌーヴェル・ヴァーグ>に影響され、そのトリュフォーはヒッチコックに影響されましたよね。ヒッチコックもまた助監督時代に<ドイツ表現主義>の影響を受けている訳ですが、そうやって点と点が繋がって線になり、映画史が形成されているということを、この映画で描こうとしたのでしょうか?
  • まさにその通りです。芸術というのは、全部繋がっています。ヒッチコックの影響を語り出すと、おそらく<映画の誕生>にまで話が及ぶと思います。映画は脈々と続くムーブメントなんですね。映画作家は、自身の作品の中にある刻印のようなものを語りたがる傾向にありますが、「実は何かに影響を受けているものなのではないか?」と私は考えているんです。
  • 日本の観客へメッセージをお願いします。
  • 私は「古い映画」という表現が、そぐわないものだと思っています。例えば、美術館に行くのに「古い絵を見に行く」なんて言い方はしませんよね。この映画は、古い時代の古い映画監督の話をしている訳ではなく、脈々と繋がる映画文化の話を描いています。若い人で「古い映画は観なくていいや」と言う人がいたら、そういう意識は捨てるべきです。この映画をきっかけに映画に対する見方を変えて、まずはヒッチコックの作品に触れて頂けると嬉しいです。
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2016年12月10日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開